「遅いな、魔理子のやつ」
俺は、2時間ほど待ち呆けていた。
あいつは、いいかげんな女だが、待ち合わせの時間に遅れたことは、なかったんだが。
胸騒ぎがするぜ。
この街で厄介ごとが起こるのは日常茶飯事。死体が転がってることなんて、ザラにある。
だが、こんなクソみたいな住処で、生きていく他、術を知らない。
そんな世界で、出会った魔理子が俺にとっては唯一、生きている実感を与えてくれる。
今日はあいつの誕生日。
大した稼ぎもないが、柄にもなくプレゼントをガキのような真剣な目つきで、選んだ。
喜んでくれればいいが。そう思いつつ、スーツの中に入れてある、箱を取り出そうとした。
懐に手をやると、買ったはずのプレゼントがない。
確かに、買ったんだが、どこかで落としたのだろうか。
探しにいかなくては。
入れ違いになると困るので、後ろの壁に、「すぐ戻る」と書こうとしたが、
そこには、あいつの字で「もうー、毎度毎度、遅すぎ!トイレに行ってくる」とあった。
時間通りに来たはずなんだが、勘違いしたのか、遅いと記されている。
俺は2時間前から、ここにいる。その文字が、胸騒ぎに拍車をかけた。
プレゼントよりも魔理子を探しにいかなくては。
この街は誰よりも、知っている。あいつが好きな場所も知っている。
この街で一番、何もなく、ただ空と星を見ることしか出来ない退屈な場所。
星が丘公園。
人込みの中、不思議と誰にもぶつかることなく、そこを懸命に目指す。
魔理子は、俺の予測どおり、そこにいた。
だが、その隣には見知らぬやつがいた。
いいかげんな俺に愛想を付かして、別の男を見つけたのか。
いつもお前を怒らせてばかりだから、今日はきっちり時間通りに、待ち合わせの場所に行ったんだぜ。
時間を間違えたのはお前だろ。
何も言わず、二人の関係が終わってしまうのに耐えられず、魔理子に声をかけようとした。
そのとき、1人の男が出てきて、魔理子たちに向けて、銃を構えた。
その男は、誰だかはわからないが、記憶にあった。しかし、今はそんなことはどうでもよかった。
俺は、その光景を見て、一目散に魔理子の元へ駆けた。
銃声が一発、公園に鳴り響く。
大事な女を残して、死ぬのはかっこわりぃが、守れないのは、もっとかっこわりぃ。
俺は魔理子の前に、立ち塞がった。
だがその銃弾は、俺を貫いて、魔理子の胸を、撃ち抜いた。魔理子は、隣の男を庇ったようだった。
銃を撃った男は、半ば半狂乱になり奇声をあげ、そこから逃げ去った。
魔理子の隣にいた男もその場所から、逃げていった。
俺は、銃を撃った男のことを思い出した。いや、全てを思い出した。
やっぱり、魔理子は時間通りに、待ち合わせ場所に来ていた。
行かなかったのは俺だ。
あの日、プレゼントを何にするかに迷っちまって、待ち合わせに遅れてしまった俺は、
急いであいつの元に向かった。
その途中、いきなりあいつが現れ、そして俺を撃った。
魔理子が過去にストーカーの被害にあっていたことは知っていた。
そいつは捕まったはずだったんだが、いや、そんなことはどうでもいい。
「魔理子、死ぬな!」
俺は、あいつに触れられぬ存在と知りつつも、魔理子の体を揺さぶる。
自分の大事な女が目の前にいても、守ることも出来ない存在の自分が歯痒かった。
無駄と知りつつも、心臓マッサージの要領で、胸を押さえた。
こんな状況でも、ただ、立ち尽くすなんてことは出来なかった。
一生守ると決めた女のために、何かし続けたい!
その一心で、必死に行為を続ける。
俺は直感的に、分かっていた。俺の存在はもうすぐ消えてしまうのだ、と。
だから、無になってしまうときまで、この女のために動くのだ。
「生きろ、魔理子!」
そのときだった。
俺の行為に意味があったのかはわからない。
だが、魔理子が咳き込んで、息を吹き返したのだ。
魔理子は撃たれた胸に、手を当てた。
そして、コートの中に手をいれて、何かを取り出した。
それは、俺があの日、買ったロケットだった。
そのロケットに、銃弾が当たって、致命傷を避けられたのだ。
真理子は痛んだ体を起こし、そのロケットを開けて、視線を上に向けた。
「そうだな、俺は退屈で仕方ないが、お前が好きな星を今日は一緒に見よう。
誕生日のわがままくらいは、聞いてやるさ」
俺は魔理子の肩を抱いた。途端、魔理子の頬に涙が伝う。
そして、ありがとう、と呟いた。
俺に言ったのか、ロケットの中の俺に言ったのかは分からない。
完
【あとがき】
これはお絵描き掲示板で、200枚突破したときの記念に書いたショートストーリーです。
初見で見れば、なんだこれは!?と思うような、キャラクターが主役ですね。
でもこの話は、こいつくらい渋くないと、成り立たないような気がします。
というか、一番最初の文章は、先のことなど考えず、適当に書いただけだったので、
終わったとき、よくまとまったな、という感じでいっぱいでした。
自分で書いておいてなんですが、久々に読むと、ちょっと感動しました。映画化できそうじゃない?(自画自賛しすぎ)。
人より涙腺が緩いせいだと思いますが、自分で作ったもので感動したのはRPGツクール3以来です。
この話が少しでも読んだ方の心に響けばいいなと思います。