宮崎駿監督の新作映画。事前情報は一切なしというプロモーション。個人的にまっさらな状態で作品を見られるのは嬉しい体験です。
戦時中スタート
サイレンと火の手が上がった映像から始まった。空襲なのかと思いこれから始まる物語に身構えました。実際は火事で、母親のいる病院が燃えて母は死亡。主人公は心に傷を負う。
父が母の妹と再婚
父が母の妹と再婚するため、東京から引っ越すことになる。時代を感じる。妹さんは母と同じ姿をしており、既に妊娠していると聞かされ、主人公は複雑な気持ちを抱く。
7人のBBA
7人の小人ならぬ小間使いのおばあちゃんたち。顔がでかくて3頭身なので最初はびっくりします。しかも父親のスーツケースにはぁはぁと興奮しており、やべえ奴らがきたなと笑ってしまった。中身は缶詰や砂糖といった貴重な物資。タバコ好きのBBAも数人いるのが印象に残る。癒し枠。
アオサギ
キービジュアルにもなっている鳥。こいつが序盤中盤までの話のキーとなる。割ときもい。引っ越し先の川辺に住み着いている。最初はただの鳥に見えたが、主人公にちょっかいをかけてきて、現実と空想の境界がぼやけていく。
謎の建物
お屋敷の裏にある謎の洋風な建物。個人的にキービジュアルにこの建物も入れた方がよかったと思う。映画内の説明だけで受け入れるには無茶な存在。事前に外観だけでも伝えてくれてたら、勝手に想像したものと答え合わせする遊びになったかな。
感想
導入でリアル寄りの話かなと思わせて、ファンタジーな表現が徐々に出てくる。それすらも不安や悲しみを抱く主人公の見た夢なのかと惑わせる。その境が曖昧だった中盤くらいまではかなり引き込まれる作りで本当に面白い。
そこを越えるとファンタジー要素が強くなり、主人公が状況に右往左往するだけに見えて、何のためにそこまで頑張ってるのかが分からなくなっていく(本当に分からないわけではない)。主人公と繋がっていた感情の線が途切れてしまい、ただ映像を見てるだけの状態になっていた。
主人公の抱く母とその妹への複雑な感情が、途中まではうまく表現されていたので、個人的にはそこを維持出来なかった点が評価の分かれ目でした。理屈では分かってあげられるけど、もうちょい本人の中で抑えてる感情を早めに表に出してほしかったな。
ファンタジー要素ありだと分かって見る2回目以降だと、ここに書いた部分は気にならないかもしれない。昭和の戦時中という中で、ファンタジー的妄想が組み込まれてるのも不思議でしたね。当事者でないとできない空想かもしれない。
テーマ
テーマや見せ方は思い出のマーニーにかなり近い。セカイ系に突入している部分もあり、宮崎駿作品でこういう描写を見るとは思わなかった。説教臭さは終盤のセカイ系部分に少し感じる程度で、それも普遍的なレベルのものだと思う。
本当にファンタジーか
現実において、母を失い転校した先でケンカになり、不登校になるため自傷して怪我を負う。そういった逃避した感情で作り上げた世界と捉えるならそうだし、この構図そのものが説教くさいといえば勿論そういえる。火事で死んだ母親が、炎使いの少女として登場したりしますしね。
ただそれを悪いと言ってる作品ではないと思う。エヴァもそうだけど、つらい感情を飲み込んだり受け入れたりする時間は必要で、そこから立ち上がるというのが普遍的な物語なんだと思う。悲しみに暮れて逃避の世界に拘泥してほしくはないですしね。
映像
映像面は何の問題もなくジブリクオリティ。令和の時代に新しいものが見られるのが嬉しい。ファンタジー世界で訪れた土地ではジブリ作品のオマージュなのかなと少し感じました。途中に出てきた大量のかわいい生物にニヤニヤした。
女性陣では母の妹さんが美人だし、母もかわいい。BBAたちもいい味出してきます。
最後に
引退してても、変わらず表現したいものを出してきて凄いなと感じられる作品になってる。終わり方は素直だし、ちゃんと主人公の成長を感じられました。まだまだ作品を作ってほしいですね。
今回の宣伝なし商法。予備知識がないと、何が始まるのか全く予想がつかなくてドキドキしました。冒頭は本当に戦時中のリアルな話かと思って緊張が走りました。もし苦手なタイプの作品だったとしても、まっさらなところから物語を見る楽しみは同じく感じられたでしょうけどね。プロモーションなしの映画は、ちょこちょこ出てきてほしい。